健康で美しい髪を維持するために、私たちはシャンプーやトリートメントといった外側からのケアに注目しがちです。しかし、本当に強く、しなやかな髪を育むためには、体の内側からのアプローチ、すなわち「栄養」が不可欠です。そして、数ある栄養素の中でも、髪の健康と成長に、極めて重要な役割を果たしているのが、ミネラルの一種である「亜鉛」です。亜鉛は、私たちの体内で、タンパク質の合成や、細胞分裂といった、生命活動の根幹をなす、300種類以上もの酵素の働きを助ける「補酵素」として機能しています。そして、髪の毛の主成分が「ケラチン」というタン-パク質であることを考えれば、亜鉛がいかに髪にとって重要であるかは、容易に想像がつくでしょう。亜鉛が髪に与える具体的な効果は、主に三つあります。第一に、「髪の主成分であるケラチンの合成をサポートする」ことです。私たちが食事から摂取したタンパク質(アミノ酸)を、髪の毛という形に再構築するプロセスにおいて、亜鉛は、いわば建設現場の監督のような役割を果たします。亜鉛が不足すると、この建設作業が滞り、髪の毛が細くなったり、成長が遅くなったりする原因となります。第二に、「頭皮の新陳代謝(ターンオーバー)を正常に保つ」ことです。健康な頭皮環境は、美しい髪を育むための土壌です。亜鉛は、頭皮の細胞が、規則正しく生まれ変わるのを助け、フケやかゆみ、乾燥といった、頭皮トラブルを防ぎます。そして第三に、「男性型脱毛症(AGA)の原因物質の生成を抑制する」効果も期待されています。亜鉛は、男性ホルモンの一種であるテストステロンが、脱毛を引き起こす強力なジヒドロテストステロン(DHT)へと変換されるのを、阻害する働きがあると言われています。このように、亜鉛は、髪を「作り」、頭皮環境を「整え」、そして「守る」という、多角的なアプローチで、私たちの髪の健康を、根元から支えてくれているのです。