二十代半ば、就職して二年が経ち仕事に慣れてきた頃、朝の鏡の前で前髪を整えようとした私は、生え際の地肌が以前よりも白く、広くなっていることに気づき、まるで足元が崩れ落ちるような衝撃を受けました。それまでの私は、自分の髪は丈夫で量も多い方だと思い込んでおり、薄毛なんて年配の男性だけの悩みだとどこかで他人事のように考えていたのですが、現実は残酷で、分け目から透けるおでこの面積は明らかに以前とは異なり、毎日数百本の抜け毛が排水溝に溜まる光景を見るたびに、自分の女性としての価値が失われていくような言いようのない恐怖に襲われる日々が始まりました。友人とカフェで向かい合って座っていても、相手の視線が自分の額に注がれているのではないかと被害妄想に陥り、風が吹くたびに生え際が露出するのを恐れて外出も億劫になり、いつの間にか厚い前髪で必死に隠すことばかりを考える内向的な性格に変わってしまいました。最初は市販の有名な育毛剤を片っ端から試しましたが、どれも劇的な変化は現れず、焦りだけが募る中で私がようやく辿り着いたのは、単に髪の表面をケアするのではなく、自分の不摂生な生き方そのものを変えなければいけないという覚悟でした。当時、私は深夜までの残業とコンビニ弁当、そして解消できないストレスからくる睡眠不足に陥っており、身体は悲鳴を上げていたのですが、髪がそのサインを真っ先に発信してくれていたのです。私はまず、仕事のやり方を見直して一分でも長く寝ることを優先し、食事では髪の材料となるタンパク質を意識して納豆や卵、赤身肉を積極的に摂るようにし、さらに寝る前のスマホを封印して頭皮を優しく解すマッサージを日課にしました。変化はすぐには現れませんでしたが、三ヶ月を過ぎた頃、それまでツルツルとしていた生え際に、力強い産毛が芽吹いているのを見つけたときの震えるような喜びは今でも忘れられません。一年が経つ頃には、以前のような隙間はなくなり、むしろ髪一本一本にコシが戻ったことで前向きな自分を取り戻すことができ、あの時絶望の中で立ち止まらず、自分の身体を慈しむ決断をした自分を今は心から誇りに思っています。